Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

     “晩秋 陽だまり”
 


赤に黄色に、茶色に紅色。
お山の上から順々に、秋の訪れが錦を広げる。
そろそろ里へも降りて来かかりなのだろか、
雑木林の端っこ辺り。
切り通しの小道をとてとてと駆けて来た小さな坊やへ、
銀の穂が咲き始めたススキが
どこへ急ぐの?と手を振ったけど。
やわやわの小さなお手々をぐうに握って、
ふわふかな頬に桃の実のような朱を散らし。
甘栗色の髪、おつむの天辺へ高々と結ったの
ふりふりと揺す振りながら、
はふはふと一丁前に息を切らして駆けてる坊やには届かない。

 「ふや…。」

矢来垣模様が入っていて 手の込んだ生地の、
紺色の小袖と、絣の筒袴という、
一人前な装束を身につけているところからして、
普通一般の民草ではなさげ。
だがだが、それなら
お供も連れずにこんな山間を
たった一人で駆けているのが平仄に合わぬ。
迷子にしては泣いてもないし、
かと言って
心細げじゃないだけで、何にか焦ってはいるらしいと。
そこまでを詳細に見て取った誰か様。
それまでは気殺していた存在を、ぬうと道の前へと現せば、

 「あ…っ。」

いかにも幼い童子が“はややぁ”と。
見上げ過ぎて向背へ てんとお尻から転ばぬかと思ったくらい、
思いきりよくお顔を上げる。
柔らかそうな小鼻の下には、
甘いものが大好きな緋色のお口が開いており。

 「これ、そのように大口を開いてるものじゃあない。」

どこからか埃が飛んで来るぞと注意したのも、突然現れた御仁の側で。
そんな気安さを示してくれる、仲良しさんだと把握した坊や、
わあとお顔をほころばせ、

 「あぎょんっ。」

大好きなの遊ぼ遊ぼとすっかり同義、
それはいいお顔で笑いかけてくれる童子。
黒い髪を房に分け、縄のように結ったという、
どこか不思議な頭をし。
今は人の姿をしているが、
屈強精悍、そりゃあ雄々しい肢体は
その不敵な態度に相応しくも頼もしく。
そちらも人の僧侶が着ていそうな、
丈夫そうな強い生地の作務衣をまとっている彼こそは、
この裏山の、妖異らの束ね、
阿含という名をした蛇の地神だ。
別に土地の神もいて、
何よりほんの目と鼻の先には
人間どもが大挙して住まう 京の都という、
この日之本の中枢部もあるよな土地柄で、
気ままを通せるほどの力持つ、結構 上位邪妖のはずなのだが、

 「う〜んと、お前は こおの方だな?」

存在感からして間違いなく恐持てで、
精気でも階位でも能力でも、鬼でも逃げよう強わものの彼だのに。
一応は鹿爪らしくも考える振りをしてから言ってやれば、

 「わあ、当たりだ当たりだvv」

凄い凄いと小さなお手々をパチパチ叩いて、
わあいわあいと無邪気に喜ぶ小さな童。
こちらの彼も、
実は…そのお尻からふんわりした尻尾が出ている、
仔ギツネの変化(へんげ)した姿であり。
齢百年というほど修行を積んだ訳じゃない、
見た目のまんまの幼さだというから、特殊な子には違いなく。
そんな幼い和子だから、
相手の恐ろしい内面が判らないのかもしれない…とか言うと

  どっかで陰陽の術師が
  腹抱えて笑い転げるにちまいなく。(うんうん)

秋の陽が辺りを金色に染め始めている昼下がり。
一人で遊んでいるのかなと、小首を傾げるお兄さんへ、

  あの、あのね?

ちょおっと困ったように辺りを見回し、
その視線が再びお兄さんの上へと止まる。
ああこの視線は困っているのという目だな。
助けを求める懇願の眼差しには覚えがないではないけれど。
俺はどっちかというと問答無用、
欲しいときゃあ有無をも言わせずのバクッていく性分なんで、
命ばかりはお助けをとかいう眸を見たことはないなぁと。
どこかおっかないことを思っていながらも、

 「…もしかして、すぐ来んのか?」

坊やが此処までを駆けて来たほう、
首を向けての眺めて見せれば、

 「そうなの、しゅぐなの。」

真ん丸なお顔を何度も何度も頷かせてしまう、
そんな所作もまたあどけない、
何とも可愛らしい ちんまい坊やからの。
ねえねえ たしけて、お願いでしゅという真摯な眼差しには、
……まずは敵おうはずがない誰か様。

 「しゃあねぇな。」

ここでやっとこ しゃがんで差し上げ、
丸太みたいな逞しい双腕、坊やへ向けて延ばしてやって……。






ほんの四半時ほども経ったかどうか。
同じ道がますますのこと、
秋の西陽に蜂蜜色で染められつつある中を、
とたとた・ちょこまかと駆けて来た影があり。
さっきの坊やを見ていたならば、
あれれぇ? 夢でも見ているのかなぁと、
自分のまぶたを擦ってしまうほど、
そっくり同じ背格好の坊やが駆けて来る。
切り通しの小道を通過して、
銀の穂がふわりと咲き始めたススキが
どこへ急ぐの?と手を振ったけど。
やっぱり気づかぬまま通り過ぎかけて……

 「………ふや?」

あれれぇ?と、その場へ立ち止まった坊や。
頭の上に結われた甘栗色の髪をふりふりと左右に揺すぶって、
回りを見回してのそれからね、

 「あ〜ぎょ〜ん〜っ。」

小さなお手々を両方とも、お口の横へ立ててから、
頑張ってお名前を呼んだらば。
何度目かでぽぽんっと姿を見せたのは
やっぱりさっきの蛇神様だ。

 「どしたね、くうよ。」
 「うーっとね、こおたん ちらない?」
 「知らねぇなあ。」

ひょいっと屈んで目線を合わせ、
愛らしい坊やににっこり微笑ったお兄さんだったが、

 「うしょ。」
 「はい?」
 「あぎょん、こおたんと一緒いた。」

によい しゅるもの、こおたんのによいと、
小さく地団駄踏んでしまう坊やには、
さしもの蛇神様も太刀打ち出来ぬか。

 「しゃあねぇな。」

雄々しい肩越し、自分のお背をひょいと見やれば、
縄のような髪の影に隠れて小さなお手々がちらりと覗き、

 「あー、こおたん見っけvv」
 「あぎょん、ずーりゅーいー。」
 「いや、別に贔屓したワケじゃあ。」
 「こおたん、おんぶ ずーりゅーいー。」
 「これこれ、よじ登るかお前。」

何も知らずに見ておれば、
愛らしい幼子二人の、
子供好きなお兄さんとのほのぼのした戯れだけれど。
色々と事情が通じている者には、


  『そら恐ろしい構図というか、
   これもまた新手の罠かと
   疑うしかない悪夢に見えたこったろな。』

  『お前が言うかね


ああ、秋ですねぇ。(こらー)




   〜Fine〜  12.10.23.


  *何のこっちゃな話ですいません。
   時々無性に、
   幼な子二人と戯れるあぎょんさんが書きたくなります。
   あんたからは
   そう呼ばれる筋合いはないとか
   言われそうなので後書きで。(ドキドキ)


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